2017年9月3日日曜日

鷲田清一「折々のことば」862を読んで

2017年9月2日付け朝日新聞朝刊、鷲田清一「折々のことば」862では
喜劇役者古川緑波の「ロッパ随筆 苦笑風呂」から、次のことばが取り上げられて
います。

 暑さというものを、勘定に入れて下さい。

戦後、浅草でお盆興行「お化け道中」を打ち、客の好評を博するも、批評家から
「客に媚び」たと酷評され、切り返したことばだということです。

私の想像するに恐らく、戦争前夜、戦中の体制批判や娯楽が不謹慎と捉えられた
時代を引きずった批評家の言に、緑波が本来喜劇とは如何なるものかを示した
ことばなのでしょう。

私は表現という行為においては、元来堅苦しさと真摯さは違うものだと感じます。

堅苦しさは真面目ではあるけれども、往々に広がりや伸びやかさに欠け、ともすると
体制や権力に従順になって、独善的になる。喜劇においては尚更、致命的な欠陥
でしょう。

それに対して表現における真摯さとは、良識を持った表現という当事者としての
責任を果たしながらも、受け手に満足を与えることを最上の価値として取り組むこと
ではないか?

この場合観客は、その作品に魅力があれば自然と集まって来るのであり、上述の
喜劇では、恐らく戦中の閉塞感からのガス抜きという役割をも果たすことになった
のでしょう。

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