2021年2月5日金曜日
頭木弘樹著「食べること出すこと」を読んで
私は、本書をある種特別な想いを持って開きました。というのは、まず、日本の総理大臣
として最長の任期を務めた安倍首相が、つい先日突然の辞任を決めたのは、本書の著者と
同じ難病とされる潰瘍性大腸炎によってであり、それにも増して、私自身が大腸がんの
手術を受け、現在も再発防止のために抗がん剤治療を続けているという、大腸の病によっ
て、健康であったこれまでの生活とはがらりと違う、日常を送ることを強いられている
からです。
本書は、大学生の時に突然この難病を発症した著者の闘病記ですが、同じ部位に病を抱え
る私が読んで、二層に分かれたとも言える感慨を覚えました。
一つは、著者の患う潰瘍性大腸炎が、炎症が治る「寛解」と炎症が再び起こる「再燃」を
繰り返す、一生付き合わなければならない不治の病で、また著者の場合は、同大腸炎の中
でも症状が重く、発症時にはかなり激しい症状を呈するからです。それゆえに著者は、
長期間に渡り社会から隔離された孤独な日常生活を送り、なおかつ出口の見えない闘病を
余儀なくされたのです。
この点に関して私の場合は、大腸がんは幸い早期発見で他の臓器への移転もなく、抗がん
剤治療を続けていると言っても治療の終わりが想定されていて、そのことが闘病のための
励みとなっています。
従って、著者の絶望や苦悩には私の思い及ばないところがあり、彼が社会から切り離され
た存在として感じた、社会の特に食に関する同調圧力や、世間のこの病気に対する無理解
ゆえの無神経さには、彼に寄り添おうとしながらも実感出来ないところがありました。
しかし、著者がカフカを始めとする文学を通して、この精神的にも過酷な状況を乗り越え
たことには、敬服せざるを得ませんでした。
二つ目は、著者と私に共通すると思われる、同じ部位の病によってもたらされた、突然の
肉体の変調ということです。食べることと排出することが、人間が生命活動を維持する上
で如何に重要であるか。健康であれば普段は決して感じない、これらの行為が支障なく
行われることの有難さ。また、それゆえこれらの行為に自覚的になることによって、食物
や飲み物の安全性や栄養バランスに注意を向けるようになり、社会的関心も広げるなど、
自身の肉体の変調を通して新たな世界が見えて来るという部分においては、著者に大いに
共感を覚える自分を感じました。
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