2025年7月17日木曜日
ハン・ガン著「少年が来る」を読んで
2024年の韓国初のノーベル文学賞受賞女性作家による、光州事件を描いた小説で、折しもこの国で現職
大統領による、過去の亡霊のような戒厳令が宣言された事件も相まって、緊張感を持って読み終えまし
た。
それにしても、私たち日本人が本書を読むと、複雑な感情が湧き起こってきます。というのは、光州事件
は言うまでもなく、当時の韓国の軍事独裁政権によって、民主的思想の住民の弾圧、殺戮が行われた事件
で、第二次世界大戦の終結前まで、この国を植民地化していた我が国が、この事件の遠因を担っていた
ことは、間違いないからです。
この民族が朝鮮戦争によって南北に分断され、以降休戦状態が続くという異様な政治状況の中で、北朝鮮
は共産主義独裁政権に支配され、南朝鮮は当時大韓民国として、軍事独裁政権に統治されていたのです。
そのような政治的緊張の中で、北朝鮮の影響力を恐れた韓国の軍事政権の蛮行は、起こるべくして起こっ
たのかも知れません。従って私たちは、光州事件を決してよそ事として、冷めた目で眺めることは出来な
いのです。しかしそれにも関わらず、私はこの事件について、余りにも何も知りませんでした。
そのような状態で本書を読んで、この本では犠牲者への鎮魂の想いを主眼として事件が描かれていますが、
その残酷さ、命を落とした人のみならず、虐待の爪痕を残され、以後の人生を狂わせられた人々、肉親を
事件で失い、深い喪失感と共に余生を生きなければならなかった人々の様子が、くっきりと浮かび上がり、
この事件のおぞましさが強く脳裏に焼き付けられます。だからこそ本書は、私たちが読むべき作品です。
それにしても今回の韓国の戒厳令宣告は、当時と比較して、この国の民主主義が根付き始めているから
こそ、大惨事に至らなかったのであり、反面、共産主義独裁が続く北朝鮮の核兵器開発、ウクライナへの
派兵は、南北分断の緊張感と、一触即発の危うさを如実に示しています。
我が国の戦前の軍事政策が今なお影を落とす、隣国の複雑な関係を、私たちは看過することは出来ません
し、歴史文化をより深く知ることも必要であると、改めて感じました。
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