2023年4月11日火曜日

吉本隆明著「吉本隆明のメディアを疑え あふれる報道から「真実」を読み取る方」を読んで

戦後思想に重要な足跡を残した思想家・吉本隆明が、時事的な社会問題について考え、発表した文章を、 まとめた本です。 今から20年前、2002年出版の書なので、その時語られた時事的問題は、当然一昔前のものになります。 しかし20年の時を経て読んでみて、隔世の感を感じるよりも、時代は繰り返されるとでも言うか、ある いは、人間の行いは変わり映えしないというような、当時と現在の類似性に驚かされるところがありま した。 例えばこの本で吉本は、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロの報復として米国が行った、アフガニス タンへの激しい空爆を伴う攻撃を、大国の一方的な論理による攻撃として非難しており、今日では歴史 的にもそのような評価が定着していると思われますが、今現在の世界においても、大国ロシアによる 小国ウクライナに対する一方的な軍事攻撃が行われています。 あるいは、吉本はオウム真理教の一連のテロ事件において、地下鉄サリン事件でオウムがサリンという 化学兵器を初めて、公衆が集まる所で使用したことの衝撃を記し、ー私自身も、改めてこの異様な教団 のことを思い起こしましたが、今日でも、安倍元首相暗殺事件を切っ掛けに、統一教会による信者への 多額の献金強要と、それに伴う信者家庭の崩壊が大きな社会問題となっています。 また、薬害エイズ事件について吉本は、非加熱輸入血液製剤を使用して血友病患者がエイズに感染し、 多数が死亡した根本の原因は、当時の厚生省の薬事行政にあるのに、この治療を委嘱させた医師団の長 や、一介の厚生省の課長補佐に責任の全てを押し付け、決着させてしまったことの不正を憤っています が、今現に進行中のコロナ禍における医療政策や行政の混乱、ワクチン接種の推進に伴う重い副反応の 問題などは、後年の丁寧な検証が必要でしょう。 このように列挙しても、それぞれ個別の状況の違いはあっても、類似する部分には共通性があると、思 われます。 本書で吉本はまた、マスメディアには体制に迎合するきらいや、大衆の気分を煽る傾向があるので、受 け手もその点に十分に注意して、報道に接しなければならないと語っています。この点は肝に銘じなけ ればならないと、改めて思いました。 非行少年犯罪の厳罰化について、最近は大人が幼児化していること、世間に潔癖さを求めすぎている ことによる社会の息苦しさの指摘には、共感できるところがありました。

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