2023年2月9日木曜日

村上龍著「愛と幻想のファシズム(上)」を読んで

中南米に端を発する世界恐慌のただ中、未曽有の経済危機に喘ぐ日本に、救世主となるべく現れた 若き狩猟家トウジ、彼は強者生存の論理に従い、政治結社狩猟社を率いて謀略と暴力を用い、過激 派や労組のストをつぶし、反対派を駆逐して、政治の実権を握ろうとする・・・。 バブル経済華やかなりし頃に、その崩壊への危機感、不安を背景に描かれたと思われる小説で、コ ロナ感染症とウクライナ戦争の渦中にある令和の時代に読むと、描かれたことを現実に目の当たり にするような錯覚に囚われます。 世界が危機に直面するという現実との類似性は別としても、なぜこの物語に描かれた主人公らの荒 唐無稽な行動が、今世界に起こっていることとシンクロするように感じられるのかというと、まず コロナ禍において、共産党一党支配という強権的な国家体制である中国が、他の民主的国家体制の 西側先進国に対して、民衆の感染防御、衛生管理という面で、当初大きな成功を収めたからであり、 ウクライナにおいては、大統領独裁体制のロシアが、現代世界においてもなお、軍事力で隣国に侵 攻するという暴挙を行ったという事実によります。 前者は、感染症によるパンデミックのような世界的危機的事態においては、強権によって民衆に行 動制限を加えるような国家体制の方が、結果として多くの民衆の命を救うということを示し、後者 は、現在のように国際的に平和が希求され、話し合いによって紛争を解決する機運が高まっている 社会でも、独裁的な国家は、平気で戦争を始めるということです。 今まで理想としていたことに疑いが生じ、人間社会の進歩に懐疑的にならざるを得ない状況におい て、本書の主人公トウジの非道な行動は、どのような意味を持つのか?私は、彼の行為や思想を嫌 悪感を伴って読み進めながら、最終的にはその答えが見出せることを、期待する自分に気づきまし た。 また本書に描かれる彼の最大の敵、多国籍企業集団「ザ・セブン」も、ある意味現在の金融資本に よる陰謀論や、グローバルに活動し国際的な影響力を及ぼす、アメリカの巨大IT企業GAFAを先取り しているようで、著者の先見の明を感じました。 とにかく、下巻を読むのが楽しみです。

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