2018年4月20日金曜日

鷲田清一「折々のことば」1076を読んで

2018年4月11日付け朝日新聞朝刊、鷲田清一「折々のことば」1076では
フランスの作家サン=テクジュペリの『人間の土地』から、次のことばが取り上げられ
ています。

 真の贅沢というものは、ただ一つしかない、それは人間関係の贅沢だ。

そういえばあの名作、『星の王子さま』でも、本来人と人とが出会うはずのない場所
での、語り手と王子さまとの一時のめぐり逢いが、はかなくて詩的な物語を現出させ
ていました。

よく知られているように、テクジュペリは作家であると同時に、草創期の飛行機の
パイロットでもありました。かつて読んだ彼の伝記によると、ヨーロッパとアフリカを
結ぶ航空便のパイロットを、長く勤めていたそうです。

彼が搭乗した初期の飛行機は基本的に一人乗りで、現在のものに比べ性能も、
装備も未熟で、パイロットの技量の良し悪しが安定的な飛行を保つために占める
割合が大きく、また天候の急変やアクシデントによる墜落、不時着の危険は
日常茶飯事で、パイロットには技術と同時に勇敢さが求められたといいます。

ましてや彼が航行した当時のアフリカ大陸は、まだまだ未開で治安も悪く、飛行
ルートの大半は人間の生存に適さない砂漠地帯だったので、墜落と不時着のリスク
を思い合わせると、正に命がけの仕事だったそうです。

このような彼が生きた死と背中合わせの環境が、飛行中の孤独の中での思索を通し
て、人と人の絆や、人間関係の妙味を、作家の心中に染み渡らせたに違いありま
せん。

そして彼の果敢な人生が、一見正反対の印象を抱かせる珠玉の作品を生み出した
ことに、後世に生きる私たちは驚きと同時に、喜びを噛みしめることになるのです。

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