2023年7月14日金曜日
北杜夫著「輝ける碧き空の下で 第二部」を読んで
暑気ブラジル移民の群像を描く、長編小説の第二部にして完結編です。本書あとがきで著者も語って
いますが、当初は三部作の予定が、第二次大戦後の展開を描くと物語が入り組んで複雑になるために、
終戦後間もなくで締めくくられています。
第二部ではまず、ブラジル北部アマゾン川流域への入植状況について、筆が進められています。ここ
で印象に残るのはジュート栽培の成功までの道程を描くストーリーで、植民のための正規教育を受け
た、国士館の高等拓殖学校の生徒たちに交じって入植した、家族移民の一人尾山良太が、度重なる
ジュート栽培の失敗のために生徒たちもやる気を失う中で、自ら植え付けた数多の株の中から、当地
での栽培に適したジュートを数株発見し、それが日本人移民によるジュート栽培の隆盛につながると
いうくだりです。一つのことを信じて精魂を込める、愚直な努力の素晴らしさを感じさせられました。
またそれに比べればサイドストーリーとも言えますが、拓殖学校生の一人木内喜一郎が色恋に対して
ナイーブであるために、当時の日本人の価値観からは絶対に忌避すべき、現地土着民の娘を妻に迎え
ることになる顛末を描くくだりで、ブラジルの広大な大地の中での、異邦人である日本人の寄る辺な
さ、それに対する現地人のバイタリティーの落差が、如実に見られて面白く感じました。
さて本書第二部で最も興味深かいのは、第二次大戦勃発から戦中戦後における日本人移民の状況です。
ブラジルは国土が広大で、また多民族国家であるために、大戦初期には、敵方の国民である日本人
移民に対する差別意識や迫害も、米国への移民に比べて少ないと感じられます。しかし戦争が進むと
都会では、日本語の使用禁止や強制立ち退き、わずかな敵対行為の嫌疑での収監と、締め付けが強化
されます。
長年築き上げた財産、信用が一瞬のうちに灰燼に帰するという意味で、戦争のむなしさ、在留外国人
の立場の弱さを感じました。更に注目すべきは、戦争終結後、なお日本の戦勝を信じる勝ち組と、
敗戦を悟る負け組が生まれ、勝ち組が負け組を殺害する事件が起こったことです。
母国から遠く離れ、情報が極端に少ない閉じられたコミュニティーの中では、このような妄執がはび
こり、暴挙が行われるのでしょう。またどさくさに紛れた詐欺行為も多く発生して路頭に迷う者も
多く生まれたといいます。人間のどうしようもない性を思うと共に、今日のコロナ禍での、オレオレ
詐欺の増加との共通点も感じられました。
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