2017年5月26日金曜日

京都国立近代美術館「メアリー・カサット展」を観て

印象派の女性画家というと、すぐにベルト・モリゾの名は思い浮かびますが、正直
メアリー・カサットという画家については、まったく知りませんでした。それで本展が
開催されると知った時、好奇心に動かされて、是非会場に足を運びたい思ったの
です。

全体を観終えてまず感じたのは、今まで数々の印象派展を鑑賞して来たので、
恐らくカサットの作品にも一度ならずお目にかかっているはずなのに、私の心の
中で印象派という固定観念の中に完全に埋没して忘却してしまっていた、この
ような確乎とした画業を達成した女性画家がいたことを改めて知った驚きでした。

印象派というとモネ、ルノアールが真っ先に想起され、この二人の絵画世界を
イメージするだけで、大体事足りるように思い勝ちですが、その派に属するとされた
個々の画家の画業の軌跡をじっくりと辿ることによって、逆に印象派と括られた
画家たちの活動を、美術史的な大局から見ることにもつながると感じました。

カサットが印象派の絵画運動に加わるのは、ドガとの出会いがきっかけということ
ですが、まだ女性の職業画家が少なかった時代、自身の志を遂げるため、弱冠
20歳そこそこでアメリカから遠い異国の地パリに赴き、当時画壇で支配的な絵画に
飽き足りず、新しい美術運動に身を投じたという姿は、その一見華やかで、穏やか
そうな彼女の絵画の芯に、絵画への並々ならぬ情熱、女性らしい柔軟な強さが
秘められていることを感じさせます。

代表作の一つ「桟敷席にて」では、上品で典雅に見えて、凛とした女性の容姿が
美しく描き出されています。

またカサットの絵画の魅力を語る上で欠かせないものとして、母子や子供たちの
姿を描いた作品が挙げられます。これらの主題を描いた画家は他にも多く存在
しますが、彼女の絵には女性ならではの母子間の親密さの卓越した仕草の表現や、
子供たちへの母性的なやさしさの眼差しが感じられて、観る者に思わずそばに
寄り添いたくなるような懐かしさを感じさせます。

特に「眠たい子どもを沐浴させる母親」では、母子の衣裳を白に統一した明るい
画面に、膝の上の眠たげな子供を濡らした布でやさしくぬぐってやろうとする
母親の夏の午後の一時を、いかにも印象派風の幸福感に満たされた気分の中に
描き出して、味わい深い作品となっています。

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